定義の後生を見定める野暮な物語りの顛末を

「あ・ほうかい 第16号 2009年9月」所収の詩です。                            
 

定義の後生を見定める野暮な物語りの顛末を
                       橋本正秀

わたしを定義する定義域の虚構虚偽の定
義の中で概念だけのわたしの飛翔がわた
しを浸食する水行のさなかの遊戯を得心
するわたしの宇宙(そら)は上空に宙ぶらりんに
凝固するという一隅のものがたりを嚥下
し唾棄するわたしの孤食の強欲を産出す
るわたしの滲出スピリッツのお祭りを彩
る概念定義の褻にも晴にもなしくずす事
象を鵜呑みする聖霊が木霊する空の窓辺
のわたしの結界が現存するドライフラワ
ーのコンタツが乱泥流にまみれる混濁模
様のカーニバルの中でわたしの屹立を受
け入れ促す定義の群れが外延ぼかしのカ
オスそのものとしてのわたしを本質的属
性そのもののなかに三つ四つ雑雑とした
わたしの所以をわたしのものとして魅せ
る白昼夢の散華する聖俗が行進する巷の
中にわたしの位置するわたしの空間をわ
たしの空間と偶有性を包括しようとする
意思を乾ききった花花をくだく道すがら
わたしの種としての意志の這いつくばる
地にあらたな息吹を写像してやまないわ
たしのうちの希求実体の存立の同種の種
差の端境の陰の立役者振る舞うわたしの
普遍概念を抽象する機会を縛るやましさ
の痕跡を凝視する。
わたしの昏い定義を捨象する祭壇で執行
する幡祭の火が揺れわたしの連関を限定
する灼熱を嗜むすべの咆吼をわたしの固
有の肉体は徴表を纏う類概念をわたしの
値域の中に霧散し供物の概念たちのわた
しの要素は最も近しい類とともにわたし
のまたもや昏い思惟の皮膚の色にやせ細
った先行的概念とともに閾値外のわたし
の宇宙(そら)に変換し空そのものを規格の中に
固定しわたしの外延は哄笑の物語りとな
ってわたしを定義する。

 【定義とは】 概念の内容を限定すること。すなわち、ある概念の内包を構成する本質的属性を明らかにし他の概念から区別すること。その概念の属する最も近い類を挙げ、さらに種差を挙げて同類の他の概念から区別して命題化すること。例えば「人間は理性的(種差)動物(類概念)である。」     
 【定義域とは】 集合AとBがあり、Aの各要素xに、一定の規則によってBの各一要素yがそれぞれ対応づけられるとき、fをAからBへの写像といい、f:A→Bと書き表す。また対応する要素を明示してy=f(x)と書く。Aをfの定義域、xがAを動くときのyの全体をfの値域という。A=Bのときはfを変換ということが多い。例えば等角写像・ベクトル・空間の線形写像など。
 【定義の虚偽とは】 論理は虚偽の一。循環定義、同語反復など。
 【概念とは】 事物の本質をとらえる思考の形式。事物の本質的な特徴とそれらの連関が概念の内容(内包)。概念は同一本質をもつ一定範囲の事物(外延)に適用されるから一般性をもつ。例えば、人という概念の内包は人の人としての特徴(理性的動物あるいは社会的動物など)であり、外延はあらゆる人々である。しかし、固体(例えばソクラテス)をとらえる概念(個体概念・単独概念)もある。概念は言語に表現され、その意味として存在する。概念の成立については、哲学上いろいろの見解があって、経験される多くの事物に共通の内容をとりだし(抽象)、個々の事物にのみ属する偶然的な性質をすてる(捨象)ことによるとするのが通常の見解で、これに対立するものが経験から独立した概念(先天的概念)を認める立場。
 【限定とは】 思考の対象の性質・限界をはっきり定めること。①論理学では、概念に属性を付加してその意義を狭くすること。すなわち、内包を広くして外延を狭くすること。規定、制限←→概括②スピノザでは、無限の実在が分化して多様な有限の事物になって現れることを論理的な限定になぞらえ「すべての限定は否定である」という。
 【内包とは】 概念の適用される範囲(外延)に属する諸事物が共通に有する徴表(性質)の全体。形式論理学上は、内包と外延とは、反対の方向に増減する。例えば、学者という概念は、哲学者・文学者・科学者・経済学者などの学者の全種類を包括するが、学者という概念に「哲学研究」という徴表を加えると、内包はそれだけ増加し、外延は反対に減少する。内容。
 【外延とは】 ひろがり。延長。一般に空間の本質とされる。論理学では、ある概念の適用されるべき事物の範囲。例えば、金属という概念の外延は金・銀・銅・鉄などである。
 【属性とは】 偶然的な性質とは区別され、ものがそれなしには考えられないような本質的性質。例えば、デカルトでは、精神の属性は思惟、物体の属性は延長。
 【本質的属性とは】 一定の事物またはその概念にとって必要欠くべからざる属性の総体。
 【偶有的属性とは】 あらゆる事物を考える場合に、本質的ではなく偶然的な性質。例えば、人間一般を考える場合、その皮膚の色のようなもの。
 【類概念とは種概念とは】 ある概念の外延が他の概念の外延よりも大きく、それを自己のうちに包括する場合に、前者を後者の類概念、後者を前者の種概念という。類概念は多くの種概念を概括する関係にある。例えば、木は梅・松・杉などに対して類概念。しかし、植物という、より上位の概念に対しては種概念となる。類と種とは相対的関係にある。概念と他概念とが上位と下位の関係に立つ時、その下位の方の概念をいう。例えば、人間は動物の種概念。但し、この関係は相対的である。

          〈これらの定義はすべて『広辞苑』によっています〉